参考図書『論語』宇野哲人全訳注 講談社学術文庫
読み方「たいはくは それ しとくと いうべきのみ。みたび てんかを もって ゆずる。たみ えて しょうする なし。」 (意味)泰伯は徳の極致というべき存在である。己の天下を譲って、絶対に自分が取ろうとはしなかった。泰伯の譲り方が譲ったとわからないようなものだったので、民も称することができなかった。 読み方「きょうに して れい なければ すなわち ろうす。」 (意味)人に接する場合に恭しくするのはよいが、礼をもって節度をわきまえないと、かえって疲れてしまうものである。 読み方「しんに して れい なければ すなわち しす。」 (意味)事を慎むのはよいが、礼によってその度合いを節しなければ、畏れるばかりで事を成し遂げられない。 読み方「ゆうに して れい なければ すなわち らんす。」 (意味)勇気をふるって行うのはよいが、礼によってその度合いを節しなければ、上下を忘れて乱をなすようになるものである。 読み方「ちょくに して れい なければ すなわち こうす。」 (意味)率直にモノを言うのはよいのだが、礼によってその度合いを節しなければ、他人に厳しすぎて不人情になる。 読み方「くんし しんに あつければ すなわち たみ じんに おこり、こきゅう わすれざれば すなわち たみ うすからず。」 (意味)上の人間が親族に対して深い気持ちで接すれば、下の人間も親族と親しむようになる。上の人間が古い知り合いに対して忘れずに厚く接するならば、下の人間もその徳が薄くなくなる。 読み方 そうし やまい あり。もんていしを しょうして いわく、「よが あしを ひらけ、よが てを ひらけ。しに いわく、『せんせんきょうきょうとして、しんえんに のぞむが ごとく、はくひょうを ふむが ごとし』と。いまよりして のち、われ まぬかるることを しるかな。しょうし。」 (意味)曾子(孔子の弟子)が病気で死ぬ間際に自分の弟子たちを呼び集めていうには、「布団をのけて私の足と手を見てごらん。詩に『おそれ慎む。深い淵に臨むように、薄い氷を踏むように』とあるが、私は今までこのようにして父母からいただいた体を大切にしてきた。今から後は死を目前にしているので、私は体を傷つけることを免れると知った。お前たちも体を大切にしなさい。」 読み方「そうし やまい あり。もうけいし これを とう。そうし いいて いわく、『とりの まさに しせんと する、その なくや かなし。ひとの まさに しせんと する、その いうや よし。くんしの みちに とうとぶ ところの もの さん。ようぼうを うごかして ここに ぼうまんに とおざかり、かおいろを ただして ここに しんに ちかづき、じきを いだして ここに ひばいに とおざかる。へんとうの ことは すなわち ゆうし そんす。」 (意味)曾子(孔子の弟子)が病気で死ぬ間際に、孟敬子が見舞いに来た。曾子が話しかけていうには、「鳥の死ぬときにはその鳴き声は哀しく、人が将に死のうとするときには、善いことを言う(だから私の話を聞いてください)。君子の道に貴ばねばならないものが三つあります。容貌を動かすときには、粗暴放漫に遠ざかり、顔色を正す場合には心から信実に近づき、言葉を発する場合は野ひと不合理から遠ざかることです。ヘンや豆などの祭器を取り扱うことなどは、役人がつかさどることであり、君子の重んじることではありません。」 読み方「そうし いわく、のうを もって ふのうに とい、おおくを もって すくなきに とい、あれども なきが ごとく、みつれども むなしきが ごとく、おかせども はからず。むかし、わがとも、かつて ことに ここに したがえり 。」 (意味)曾子が言うには、自分は才能がありながら才能の無い人に問い、見聞が多いのに少ない人に問い、道理を悟っていながら自分は知らない者のように思い、徳が充実していながら空虚であるように思い、他人から侵害されてもどちらが正しいかをくらべて争うようなことはしない。むかし、わが友にこのような事を勉めて行った人がいた。 読み方「そうし いわく、もって りくせきの こを たくすべく、もって ひゃくりの めいを よすべく、たいせつに のぞんで うばうべからず。くんし じんか、くんし じんなり。」 (意味)曾子が言うには、幼少の君を託されてこれを補佐し、国家の政を行って命令を下し、節操は生死に関わる大事変に臨んでも奪われることが無い。このような人は君子だろうか。これこそ全くの君子である、と。 |