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「十八史略」に学ぶ兵法経営【目次】

2.人間の本質と欲望編(基本)

欲望を制御するものと方法(4)学ぶ姿勢こそ


宋の真宗(しんそう)皇帝が幼少の頃、
宰相だった李沆(りこう)は、
四方からの洪水、旱魃(かんばつ)、
盗賊の情報を毎日、真宗に報告した。

副宰相の王旦(おうたん)は、

「そのような些細な事で
 陛下をわずらわせるのはいかがなものか」

と批判した。

李沆はこう答えた。

「いやいや、
 帝が何分にも幼少であられるから、
 世間の苦しみをお知らせして
 おかねばならぬ。

 そうでなければ、
 血気盛んな大人に成長されたとき、
 音楽やら女色やら、良犬・駿馬に
 お心を留めるようになるか、
 さもなければ土木とか戦争とか祈祷など、
 無用なことをお始めになるだろう。

 私はもう老年で、それを自分の目で見る
 ことはできないが、
 若いそなた等の心配の種となろう」

李沆の予言どおり、
年号が大中祥符(たいちゅうしょうふ)
(西暦千八年)になると、
封禅(ほうぜん)、祭祀、土木などが
一度に始まった。

王旦は嘆息して言った。

「李沆殿はまことの聖人であった」

李沆は将来、
真宗がどのような欲望の虜(とりこ)と
なるかを心配し、幼少の頃から民の苦労を
教えたが、李沆亡き後、心配された通りの
道へ進んでしまった。

他の宰相では抑えられなかったのである。

やはり、本人にとって頭の上がらない、
師のレベルにある人を
側に置かねばならない。

苦労した経験もなく、
師と呼べるほどの人物も側にいなかったら
どうするか。

宋の武宗(ぶそう)皇帝の頃、
権勢を振るった宦官の
仇士良(きゅうしりょう)は、
公職を退いて私邸に引き下がるとき、
見送りに来た宦官たちにこう教えた。

「天子に閑(ひま)を与えてはいけない。
 いつも贅沢をさせて喜ばせ、他のことに
 頭を使わせないように工夫せよ。

 くれぐれも天子に書物を読ませたり、
 儒学などの学者に親しませたりしては
 いけない。

 もし、天子が歴史の興亡を学び、
 将来の心配を始めたときは、
 われわれ宦官はうとんぜられると心得よ」

つまり、
歴史や思想について書物から学べば、
欲望を制御するためのかなりの助けに
なるということである。

唐が亡んだ後、五代と呼ばれる時代の
後周(こうしゅう)で、
五代随一の名君とも言われる
皇帝が誕生した。

世宗(せいそう)皇帝である。

世宗は、後周の太祖(たいそ)、
郭威(かくい)の夫人、柴(さい)氏の兄、
柴守礼(さいしゅれい)の子で
栄(えい)という名だった。

太祖に子が無かったため、
栄は太祖の養子となったのである。

幼い頃から太祖の家で養われていたという。

郭威は前王朝、後漢(ごかん)の重臣で、
軍事を担当していたため、
栄もその部下として軍事面の重職を
任されていた。

現場でさまざまな経験をし、
苦労を重ねたのだろう。

帝位にのぼるや、
第一に高平(こうへい)郡に侵入した
北漢(ほくかん)・契丹(きったん)の
連合軍を撃破したので、
人々は世宗の英明勇武なことに心服した。

世宗は政事の面でも傑出しており、
裏取引などの悪事をあばき、
摘発するときの洞察力は、
まさに神と呼んでよいほどであった。

この世宗は、暇な時間ができると
儒者を呼び寄せて史書を読ませ、
君主の進むべき筋道を比較研究した。

生まれつき歌舞音曲や珍奇な品を
愛玩するなどの趣味は無かった。

そしていつもこう言っていた。

「私は必ず自分の感情によって
 功のない者を賞したり、
 罪のない者を罰したりしない」

人々は世宗の聡明さを畏(おそ)れる一方、
その恩寵(おんちょう)を受けて
懐(なつ)き従った。

だが、世宗は残念ながら、
即位後わずか六年で病に倒れ、亡くなった。

崩御の報が伝わったとき、人民は皆、
哀しみ、その徳を偲んだ。

世宗は若い頃から
種々の経験を積むとともに、
儒者や史書などからあるべき姿を
学んでいたからこそ、
自らの欲や感情にもとづいて
判断することの危険さを十分に
承知していたのであろう。

私欲に走ることはなく、
最後まで立派な君主であった。

この世宗のもとで働き、最も信頼されていた
趙匡胤(ちょうきょういん)は、
唐末から五代にかけて六十年間続いた戦乱の
世を終わらせ、統一国家宋(そう)王朝を
創建するのだが、その土台は後周の世宗が
作っていたのである。

自らの欲望を制御するには、

・現場の苦労を知ること、
 自ら苦労してみること

・心から尊敬できる師をもち、
 言葉に耳を傾けること

・歴史や哲学書から、
 過去の失敗やあるべき姿を学ぶこと


が大事である。

リーダーたる者、
自らの欲望を制御できるか、
己の私欲に勝つことができるかは、
大業を成せるか否かの最大のポイントだ。

日々、自分自身の行動や心理を観察し、
あるべき姿を堅持するよう、
たゆまず精進せねばならない。

→続く 3.権力の本質と内部抗争編「権力を得ようとするものの本質」
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