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「十八史略」に学ぶ兵法経営【目次】

8.時代を読む先見と行動編

先が見えない時代のリーダーの資質…(2)李世民の突破力

ところで、李淵の次男の
李世民(りせいみん)は、
聡明で勇気と決断力に富み、
見識、度量が人よりも優れていた。

隋王朝の天下が乱れているのを見て、
ひそかに天下を平定しようという志を
抱いていた。

ある日、親交を結んでいた
晋陽(しんよう)の地の県令の
劉文静(りゅうぶんせい)が
李世民に向かっていった。

「今、天子は南方に巡幸しており、
 そのすきに各地で蜂起した盗賊は
 万をもって数えるほどです。

 この好機に、真の英主が現れて、
 これらの乱民を駆り立て、使いこなせば、
 天下を取ることは掌(てのひら)を返す
 ように簡単です。

 まず、ここ太原(たいげん)郡の人民を
 取りまとめたならば十万人は
 集められます。

 そして、ご尊父の兵がまた数万人あります
 ので、これを合わせて巡幸で天子不在の
 すきにつけ込んで関中(かんちゅう)に
 攻め入り、天下に号令したならば、
 半年もたたないうちに帝業の成ることは
 間違いありません」

李世民は笑っていった。

「君の言うことは私とまったく同意見だ」

そこで、ひそかに軍隊を手分けして旗揚げの
準備をした。

しかし、父の李淵はそれに気づかなかった。

ちょうどその頃、李淵は突厥の軍との戦いに
敗れ、朝廷から責任を問われるのではないか
と心配していた。

そこで李世民は、
この機会に乗じて父を説得した。

「今、民心は朝廷を離れています。

 民心にしたがって正義の兵を興したならば、
 禍(わざわい)を転じて福となすことが
 できるでしょう」

李淵は大いに驚いていった。

「お前はなんという大それたことを
 言い出すのだ。

 今すぐ、
 お前を縛り上げて朝廷に告訴してやる」

しかし、李世民は落ち着き払っていった。

「私が天の時、人の動きをじっくりと
 見極めたうえで申し上げているのです。

 もし父上が私を捕らえて朝廷に訴えると
 申されるならば、私はあえて死を
 厭(いと)いはしません」

李淵はこれを聞いていった。

「わしがどうして息子のお前を
 告訴などできようか。

 お前も気をつけてそのようなことを
 口外してはならんぞ」

しかし、その翌日、
李世民はまた父に説いていった。

「世間の人々は、
 『李氏が占いどおり決起するに違いない』
 と噂し合っております。

 そのため、李姓の李金才(りきんさい)と
 いう人物は理由もなく疑われて、
 一族皆殺しにされました。

 父上がたとえ賊を撃ち尽されても、
 恩賞にあずかるどころか、かえって
 身はますます危険になるばかりでしょう。

 唯一、昨日申し上げた方法だけが、
 この禍から逃れて救われる方法なのです。

 万に一つも失敗は致しません。

 お疑い無きように」

李淵はため息をついていった。

「実はわしも昨夜一晩中、お前の言葉を
 考えてみたが、確かに理にかなっている。

 今日、ここにわが家を破りわが身を亡ぼす
 のも、わが家を化して李氏の国家を
 作り上げるのも、お前の策次第のようだ」

こうして徐々に李淵の気持ちは決起に
傾いていく。

それでもなお優柔不断な李淵であったが、
煬帝が李淵を逮捕するための使者を
遣わしたと聞いて、ようやく李淵は兵を
挙げるのである。

もしも、息子に李世民がいなければ、
唐(とう)王朝は起こらなかったであろう。

封建時代で子が父を動かすことが難しい
なか、李世民はみずから天下を平定しようと
思い立ち、父を説得して決起させた。

相当、
意志が強くなければできることではない。

→続く「先が見えない時代のリーダーの資質…(3)結果に楽観的」
「十八史略」に学ぶ兵法経営【目次】

 

 

 

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