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「十八史略」に学ぶ兵法経営【目次】

2.人間の本質と欲望編(基本)

男と女(1)蘇秦のため息


人間には男と女しかいない。

この男と女が複雑に絡み合って問題を
起こすのが人の世である。

古来、自然の猛威にさらされた人類は、
洋の東西を問わず、
力の強い男が上に立つ存在となった。

そして、男の中で最高の権力を握った男、
すなわち天子が多くの女をはべらすと
いうのが基本的な構図となったのである。

では、権力のない、稼ぎの少ない男も女の
上に立てたかというと、そうではなかった。

後に合従策(がっしょうさく)

(戦国時代、燕(えん)・趙(ちょう)
・韓(かん)・魏(ぎ)・斉(せい)
・楚(そ)の六ヵ国が南北に連合し、
強大となった秦に対抗しようとする策)

を遊説(ゆうぜい)して回り、
六国の宰相を兼ねる地位にまで上った
蘇秦(そしん)であったが、
遊説を始めた頃はなかなかうまくいかず、
食うにもことかいて故郷に帰った
ことがある。

そのとき、妻は蘇秦を無視して
出迎えもせずに機織りを続け、
兄嫁は食事の支度もしてくれなかった
という。

稼ぎの少ない男に女が厳しい目を
向けるのは、男尊女卑の昔も同じだった
ようである。

その後、蘇秦が成功して六国の宰相を
兼ねる身になったとき、親族は一変した。

蘇秦がさながら王のような
風情(ふぜい)で、護衛(ごえい)の
馬車や荷車を従えて故郷の
洛陽(らくよう)に立ち寄ると、
妻や兄嫁、蘇秦の兄弟たちは皆、
伏し目がちで、
蘇秦の顔を見ようともしない。

平身低頭して、
側につききりで食事の世話をした。

蘇秦は笑い、

「どうして以前はあんなに
 威張っていたのに、
 今日はこんなに恭しく接して
 くださるのですか」

と問うてみたら、兄嫁は

「あなたが高位高官となられ、
 きっとお金もたくさんもって
 おられるだろうと思うからです」

と答えた。蘇秦はため息をついて言った。

「昔も今も私は私。変わっていない。
 なのに、出世して富貴になれば
 畏れおののいて丁寧に接し、
 貧しくて身分も低いと人間扱いすら
 してもらえない。

 親戚でさえこうなのだから、
 他人はなおさらだ。

 ああ、私にもし、洛陽の郊外に
 食えるだけの田地があったなら、
 とても六国の宰相になど
 なれなかっただろう」

蘇秦は多くの金をばらまいて、
一族の者や友人に分け与えたという。

→続く「男と女(2)女は魔物?」
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