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「十八史略」に学ぶ兵法経営【目次】

3.権力の本質と内部抗争編

  寝首をかく者とその方法(3)中宗と韋后


唐の時代、即天武后(そくてんぶこう)が
張柬之(ちょうかんし)らの賢臣によって
宮中から追い出された後、
中宗(ちゅうそう)皇帝が復位した。

中宗は、はじめ即位してわずか二ヵ月目に
武后によって廃せられ、
廬陵王(ろりょうおう)となって
均(きん)州に一年、その後、
房(ぼう)州にいること十三年、
都の洛陽にかえって太子となること
さらに八年を経て、
ようやく帝位に復したのである。

夫人の韋(い)氏もふたたび皇后となった。

中宗は房州にいたとき、将来を悲観して
たびたび自殺しようとした。

韋后はその都度、思いとどまらせた。

中宗は愛情を感じて、
韋后にひそかに誓った。

「後日、幸いに再び日の目を見られるように
 なったら、何ごともお前の望むとおりに
 して禁じたりはしないぞ」

復位がかなって中宗が朝廷に臨まれる
ごとに、韋后もかならず帷幔(とばり)を
めぐらして殿上に座し、
朝政に参与することは、
あたかも高宗(こうそう)時代の
武后と同様であった。

中宗の娘の安楽(あんらく)公主という
者が、武后の甥(おい)、
武三思(ぶさんし)の息子のもとに
嫁いでいた。

皇女、安楽公主の義父となった武三思は、
宮中に自由に出入りすることができ、
韋后と密かに通じ合うようになった。

中宗はこれに気づかぬばかりでなく、
そのかたわらで、二人の雙陸(すごろく)
遊びの点数係をさせられていた。

こうして、中宗はとうとう武三思に
政治上の相談をするようになり、
宰相の張柬之らは皆、武三思の指図を
受けるようになった。

やがて、張柬之をはじめとした五人は
功臣という名目でそれぞれ王爵を賜り、
祭り上げられて、
政治に携わることをやめさせられた。

その後、間もなく五人は遠い州に
左遷され、殺された。

一方、安楽公主も権勢をたのんで
政事に口をはさんだ。

内々の頼みごとで面会を求めてくる者から
さかんに賄賂(わいろ)を受け取り、
某官に任命すると、
朱印の無い墨書きの勅書を勝手につくり、
適当に封をして中書(ちゅうしょ)省
(中書とは宮廷の文書・詔勅を掌る官職)
に交付した。

これによって役人になった者を、
当時、斜封(しゃほう)官と呼んでいた。

その数が全部で数千人に及んだ。

ある男が、韋后は淫乱であると中宗に
言上した。

中宗はその男を面前に呼び出して
詰問したが、男は、淫乱は事実であると
主張した。

韋后の息がかかっていた
中書令(ちゅうしょれい)の
宗楚客(そうそかく)は、
天子の仰せであるといつわって、
この男を殴り殺してしまった。

この段階で中宗はようやく疑い始め、
表情がすぐれなくなった。

韋后およびその一味の者たちは
心配し始めた。

特に馬秦客(ばしんかく)、
楊均(ようきん)などは韋后に
可愛がられていたので、
事が露見しないかとひどく恐れた。

また、安楽公主もやはり
韋后が朝廷に出て政事を行い、
自分を皇太女(こうたいじょ)、
つまり女子でありながら次の天子として
指名してもらえることを望んでいた。

そこで、こうした連中が相談をして、
肉饅頭の中に毒を入れて中宗にすすめた。

中宗は毒殺されてしまったのである。

不遇のときに支えてくれた妻。

苦労をかけた分、復位したら報いて
やりたいと思うのは人情として当たり前で
あろう。

しかし、この情があだとなることは
しばしばある。

例えば、創業して業績が芳しくない頃に
支えてくれた社員を、ただ長く苦労を
共にしたというだけで幹部や管理職に
抜擢するとろくなことがない。

ある企業の社長は、
倒産間際の厳しい状況から建て直すのに功の
あった社員を子会社の社長に抜擢したが、
その男は会社の金に手をつけてしまい、
クビにせざるを得なくなった。

また、別のある会社では、専務として
頑張ってくれていた社長の腹心が、
ある日突然、30名もの社員を引き連れて
辞め、新会社を作り、競争相手となった。

いずれのケースも、
社長は寝首をかかれたような気持ち
だったろう。

いずれにせよ、
寝首をかく者は「信用」を武器にしてくる。

表面的には心から従っているように
見せながら、心の中には欲望が渦巻いて
いるのだ。

もし最初からそうであるならば
見抜きやすいかもしれないが、
初めは本当に忠誠を誓って仕事をしている
ケースも多々あるので始末が悪い。

何かをきっかけとして敵対勢力となり、
寝首をかく行為へと走る者もいるのである。

情にかられた人事は避けねばならない。

→続く権力を誰に譲るか、どういうことが起きるか…(1)李徳裕の教え」
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