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「十八史略」に学ぶ兵法経営【目次】

2.人間の本質と欲望編(基本)

不老長寿(1)秦の始皇帝


いくら巨万の富を得た者でも、
年をとるとこう考えるそうだ。

「もう一度、若返ることができるのならば、
 この富を手放してもかまわない」

と。

死に一歩、一歩、近づいている恐怖は、
一般の人間と同じく、どんな大富豪にも
平等に与えられる。

そこで、金がうなるほど手元にある分、
何とかその金を使って不老長寿を
手に入れることはできないものかと
あがき苦しむのである。

秦(しん)の始皇帝(しこうてい)も
その一人であった。

始皇帝が東方の郡県を巡幸して海岸地帯に
いたった際、斉(せい)の方子(ほうし)
(神仙の術の修行者)である
徐市(じょふつ)らが
上書(じょうしょ)して、

「身に汚れのない童男童女を連れて海上へ
 乗り出し、蓬莱(ほうらい)、
 方丈(ほうじょう)、瀛州(えいしゅう)
 の三つの神山に住んでいるという仙人を
 探し出し、不老不死の薬を手に入れて
 献上したい」

と願い出た。

始皇帝は、徐市らの提案を受け入れ、
出発させた。

「史記」によれば、この蓬莱、方丈、瀛州の
三神山を探し求めることは、戦国時代の
斉(せい)の威(い)王・宣(せん)王、
燕(えん)の昭(しょう)王の頃から
始まったとされている。

始皇帝よりも百数十年前である。

これらの山は渤海(ぼっかい)の中にあり、
人の住む世界からさほど遠くはないのだが、
もうすぐ到達できるというところまで
いくと、風が吹いてきて船を遠ざけて
しまうのだという。

しかし、行き着いた者もあったといい、
そこには多くの仙人が住み、
不老不死の薬があり、物は皆、
鳥や獣もことごとく真っ白で、
金銀で造った宮殿がある。

遠くから眺めれば雲のようで、
近づくと水中に沈んでしまう。

いよいよ乗り込もうとすると
風が引き離してしまうので、
なかなか到達できない。

王侯たちはみな、この話に引き込まれ、
探し求めさせてしまうのである。

始皇帝が沿海地方を巡幸すると、
方子たちでこの話を始皇帝に持ちかけて
くる者が数えられないほどいた。

始皇帝は、心の中では

「海に探しに出たところで
 行き着くことはできないだろう」

と思っていたが、それでも方子たちに命じ、
身に汚れのない童男童女を連れて海上を
探させたのである。

多くの船が海上を行き交い、
探索したけれども、
結局どの船も風のせいにして、

「行き着くことはできなかったが、
 遠くから眺めることは出来ました」

と報告したという。

始皇帝は死ぬまで、
不死の妙薬を求め続けたのである。

方子たちのなかに、三神山の存在を
信じている者がどれほどいただろうか。

ほとんどは始皇帝の長生きしたいという
欲望を利用し、朝廷から三神山探索の
ために必要な金を騙し取っていただけでは
ないかと思われる。

それにしても、最後の最後まで
不死を求めた始皇帝は哀れである。

→続く不老長寿(2)西漢の武帝」
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