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「十八史略」に学ぶ兵法経営【目次】

8.時代を読む先見と行動編

天変地異が人々に与える影響と心理的作用(5)キョウ遂の成功

西漢の孝宣(こうせん)皇帝の頃のこと。

渤海(ぼっかい)郡はたびたび飢饉に
見舞われ、盗賊が出没するようになった。

そこで宣帝はキョウ遂(きょうすい)を
選んで長官に命じた。

キョウ遂を引見して尋ねた。

「どのような方法で盗賊を取り締まるのか」

キョウ遂はこう答えた。

「渤海ははるか遠くにある海辺の僻地で
 あり、陛下の徳に浴してはおりません。

 人民が飢えと寒さに苦しんでも、
 役人は憐れむこともしません。

 そこで陛下の赤子(せきし)の人民ども
 が、つい刃物を盗み出し、ぬかるみの中で
 いたずらをしているのです。

 今、陛下は、私をして彼らを征伐させる
 おつもりですか、それとも、彼らを
 落ち着かせ、安定させるおつもりですか」

宣帝はいった。

「優秀な人物を選んで登用するのは、
 もちろん、彼らを安定させるためである」

そこでキョウ遂はこう願い出た。

「乱れた民を治めるのはもつれた繩(なわ)
 を解きほぐすようなものです。

 急いではなりません。

 そこでお願いがございます。

 私をわずらわしい法で拘束することなく、
 現地では私の一存で何でもできるように
 取り計らっていただきたいのです」

宣帝はこれを許した。

キョウ遂は宿から宿へ馬車を乗り継ぎ、
渤海郡の入り口に到着した。

渤海郡では新任の長官を迎えるため兵を
差し向けていたが、キョウ遂はことごとく
引き返させた。

そのうえで盗賊の捕縛を中止させ、
布令(ふれ)を出した。

「すべて農具を持っている者は良民、
 武器を持っている者は盗賊とみなす」

それから、キョウ遂は護衛もつけず、
一台の車で役所に乗りつけた。

盗賊はこの話を聞いて、即座に解散した。

それでも刀剣を持ち続ける者があれば、
キョウ遂は、

「どうしてお前たちは牛や豚を
 腰にぶらさげているのか」

と諭して、剣や刀を売らせて牛や豚を
買わせた。

こうしてキョウ遂は人民をいたわりながら
領内を巡視して歩いたので、郡中の者は皆、
蓄えもでき、裁判沙汰もなくなった。

この功績により、
キョウ遂は朝廷に召されて昇進した。

天変地異が発生すると人心は動揺する。

「このままではいけない。

 自分のことは自分で守らねばならない」

などと考えて、政府が思いもよらない行動を
とり、パニックに陥りがちだ。

このような場合に平常時の法律で縛るやり方
をしてもうまくいかない。

臨時の措置として、現地をよく知っている
賢人に権限を与えてすべてを任せる方が
はるかにうまくいくのである。

遠い昔から優れたリーダーは
このようにしていた。

動揺している人々を安心させること。

そのため、速やかに適切な情報を
届けること。

これがリーダーに求められることである。

中央に識者を集めて会議を重ね、
いたずらに時間を浪費すれば、
現地の人民を苦しめるばかりである。

→続く「人を魅きつけて力をつけていく行動(1)宋の景公の善言」
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