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「十八史略」に学ぶ兵法経営【目次】

7.権力者が陥る罠と組織の崩壊編

女と子供(1)賈皇后と恵帝    


権力者は、自らの目標達成に邁進している
間はそれほどぼろを出すことはない。

しかし、私欲を満たすことが隠された本来の
目的なので、女や子供など、まさに自分の
寵愛の対象になるものとの関わり方に問題が
生じると、たちまちにして私生活を乱し、
組織を崩壊させるきっかけを作ってしまう
ことが少なくない。

西晋(しん)の孝恵(こうけい)皇帝は、
生まれつき頭が悪くのろまであった。

太子であったとき、賈(か)氏という、
権謀詐術を多く用いる女を妃(きさき)と
した。

ある者が、恵帝の太子当時に、
その父である世祖武(ぶ)皇帝の側(そば)
で酒の相手をしながら、酔ったふりをして
前にひざまずき、手で武帝の椅子を
撫で回して、

「この玉座は大事にせねばなりません。

 惜しいことです」

と、暗に今の太子に譲ることを批判した。

武帝はそれと悟って太子に試験を
課すことにした。

尚書(しょうしょ)省が提出してきた
難題を密封して太子に送り、
これを裁決するように言い渡した
のである。

妃の賈氏は、太子が廃されるのではないかと
大いに恐れ、こっそりと人を雇い、太子に
代わって答案を作らせて太子に自筆で
写させ、それを武帝に提出した。

武帝はその答案を見て、
これなら大丈夫である、
心配は杞憂(きゆう)であった
と喜び、太子を廃することはやめた。

賈氏は自分が権力を得るために工夫した
わけだが、答案の真偽を疑いもせず、
そのまま太子を廃さずにいた武帝も
親ばかが過ぎる。

子に関心をもってみていれば、
他の誰かの答案だと気づいても
よさそうなものだ。

武帝はただ喜んだというが、
実は気づいていながら、
見て見ぬふりをしたのかもしれない。

恵帝の即位後、賈氏は皇后となり、
政事に厚く関わった。

恵帝は頭が弱く、ものごとを適切に
判断することができなかった。

天下が飢饉で苦しんでいると聞いて、
恵帝は、

「米がなければどうして肉の粥(かゆ)を
 食べないのか」

といったという。

また、華林園(かりんえん)に遊んで
蛙(かえる)の鳴き声を聞いた時、恵帝は、

「あの蛙どもは、
 官のために鳴いているのか、
 自分のために鳴いているのか」

と尋ねた。

そこでお側の者たちは恵帝をからかって、

「官有地にある蛙は官のために鳴き、
 私有地にある者は自分のために
 鳴いております」

と答えた。

恵帝はこれほど暗愚な天子であった。

そのため、賈皇后が朝政を取り仕切る
ようになったのである。

賈皇后の専横が始まり、
それがいわゆる「八王の乱」のきっかけと
なって、西晋王朝は傾いていくのだ。

武帝が恵帝という暗愚な息子に権力を
承継してしまったことが、
国の崩壊を早めた。

子に対して親が愛情を抱くのは自然だが、
それと事業承継とは別物である。

割り切って考えねばならない。

→続く「女と子供(2)孝武帝と張貴人」
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