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「十八史略」に学ぶ兵法経営【目次】

6.リーダーの条件と承継編

 人は何に従っているのか(2)即天武后と人材活用     


即天武后の場合は、権謀術数に長けている
ところがあって、人の用い方がうまかった。

当時の賢人、才人たちは、即天武后のために
働くことを楽しみにしていた。

例えば、徐有功(じょゆうこう)は思いやり
が深く寛大な人物で、法の執行もゆるやかで
あったが、武后の意見が徐有功と食い違った
ときは必ず武后が折れて、彼にしたがった。

また、武后は将軍や大臣にもすぐれた人物を
数多く登用していた。

魏元忠(ぎげんちゅう)
・婁師徳(ろうしとく)
・狄仁傑(てきじんけつ)
・姚元崇(ようげんすう)は、
いずれも名宰相であったし、
・宋璟(そうえい)
もまた朝廷では名を知られていた。

なかでも婁師徳は寛大温厚、潔白でつつしみ
深く、他人から理不尽な仕打ちを受けても
けっして取り合わなかった。

婁師徳の弟が代(だい)州の長官に任命され
たとき、彼は弟にこう尋ねた。

「このように兄弟そろって出世して寵愛を
 受けることは、人から妬まれるもとで
 ある。

 どうしたらその禍を免れることが
 できるだろうか」

弟はこう答えた。

「今からは、たとえ他人が私の顔に唾を
 吐きかけても、だまってぬぐうだけです」

この返事に婁師徳は悲しそうな顔をした。

「これが、私が心配している点なのだ。

 他人がお前の顔に唾をかけるのは、
 お前に対して怒っているからだ。

 それなのにその唾をぬぐったら、
 相手はさらにお前を憎むであろう。

 唾はぬぐわなくとも、
 おのずから乾いてしまうもの。

 ただ笑って
 そのままにしておけばよいのだよ」

また、婁師徳はいつも狄仁傑を武后に
推薦した。

それなのに狄仁傑は逆にいつも婁師徳の
悪口を言っていた。

あるとき、武后が狄仁傑に言うには、

「私がそなたを用いているのは、婁師徳が
 そなたを推薦したからなのですよ」

狄仁傑は御前を退くと、嘆じて言った。

「婁師徳という人物の徳は
 たいしたものである。

 彼は長い間、私の非を許してきたのだ。

 あぁ、恥ずかしい」

即天武后は、こうした賢人、才人を自分の
周囲に置き、政治を行っていたので、
治世はおおむね順調だったのである。


呂后のときも、武后のときも、朝廷内部での
権力闘争は起こり続けている。

それでも人民の暮らしが安泰であれば、
その権力闘争が戦乱に拡大する可能性は
低い。

これが意味するところは、

人は飯を食わせてくれる人についていく

ということだ。

確かに簒奪はよくないこととは
知りながらも、王家の姓が変わることより、
自分たちが飯を食えるかどうかが一般庶民に
とっては大事であり、政治家たちも自身が
安泰であれば、当面はそれでよいのである。

戦争の際、負けそうになった軍からは人が
離れ、優勢な軍に人が集まるのも、結局は
自分自身が生きていける方へ従おうとする
行動であり、本質は同じである。

簡単にいえば、

利益が得られやすい方に従う

わけだ。

→続く「人は何に従っているのか(3)文天祥の『義』」
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