参考図書『論語』宇野哲人全訳注 講談社学術文庫
「子張曰く、士は危うきを見て命を致し、得るを見て義を思い、祭りに敬を思い、喪に哀を思わば、其れ可なるのみ。」 読み方「しちょう いわく、しは あやうきを みて めいを いたし、うるを みて ぎを おもい、まつりに けいを おもい、もに あいを おもわば、それ か なるのみ。」 (意味)子張がいうには、士は君父の危難を見ては己の命を差し出し、得るべき利益を見ては義にかなっているかどうかを考え、死者を祭るときは生前と同じように誠を尽くし、喪にある時は哀しんで悲痛の情を極めるならば、大節欠けることなく、士としてよいのである。 読み方「しちょう いわく、とくを とる こと ひろからず、みちを しんずる こと あつからずんば、いずくんぞ よく ありと なさん、いずくんぞ よく なしと なさん。」 (意味)子張がいうには、徳を守ることがひろくなくて一善で満足し、道を信ずることが篤くなくて疑い惑うているならば、徳は孤となり道は廃れてしまうから、人は世から存在を認められないのである。 読み方「しか いわく、しょうどうと いえども かならず みるべき もの あり。とおきを いたせば おそらくは なづまん。これを もって くんしは なさざるなり。」 (意味)子夏がいうには、一つの技、一つの芸のような小道でも必ず観るべき理を含んでいる。しかし、これを押し広めて天下国家を治めるような遠大な事業を行うには恐らく停滞して行われないだろう。だから、君子は、己を修め人を治める大道に心を用いて、一技一芸のような小道を学ぶことをしないのだ。 読み方「しか いわく、ひに その なき ところを しり、つきに その よく する ところを わするる こと なきを、がくを このむと いうべきのみ。」 (意味)子夏がいうには、毎日自ら勉めて己のまだ知らずまだ行わぬ所のことを知り、毎月自ら省みて己の既に知り行ったところのことを忘れることがなければ、心が一時も学を離れることがないから、真に学を好むといってよろしい。 読み方「しか いわく、ひろく まなんで あつく こころざし、せつに とうて ちかく おもわば、じん その うちに あり。」 (意味)子夏がいうには、学者がひろく学んで見聞を広め、篤く志して、適切なことを師友に問うて、己の身に近いことを思うならば、仁は求めないでも得られるのである。 読み方「しか いわく、ひゃっこうは しに いて もって その ことを なし、くんしは まなんで もって その みちを きわむ。」 (意味)子夏がいうには、諸種の職工は役所の器物を製作する所に居て一心に仕事をし、その仕事を完成する。君子は学を勤め道を求めてその道の極致に達する。 読み方「しか いわく、しょうじんの あやまちや かならず かざる。」 (意味)子夏がいうには、小人は過ちがあるとこれを改めることをはばかり、必ず表面を取り繕う。 読み方「しか いわく、くんしに さんぺん あり。これを のぞめば げんぜんたり。これに つけば おんなり。その げんを きけば はげし。」 (意味)子夏がいうには、君子には三つの変化がある。遠方からこれを望むと荘厳で犯すことができないようだ。近づいてその身辺に行くと温和で親しみを感じ、言うことを聴くとことばは厳正で是非を変えることは無い。 読み方「しか いわく、くんしは しんぜられて しかして のちに その たみを ろうす。いまだ しんぜられざれば すなわち もって おのれを やましむと なす。しんぜられて しかして のちに いさむ。いまだ しんぜられざれば すなわち もって おのれを そしると なす。」 (意味)子夏がいうには、君子は我が民を愛する誠意が民に信ぜられてから後にその民を労役に服させる。もしまだ信ぜられないのに民を労役に服させれば、民は己を虐待して苦しめると思う。君子は君に信ぜられてから後に直言を進めてその君を諌める。もし君から信ぜられないのに君を諌めれば、ただその言の耳に逆らうのを見て己を謗るのだと思う。 読み方「しか いわく、たいとくは かんを こえず、しょうとくは しゅつにゅうするも かなり。」 (意味)子夏がいうには、忠信孝弟などの大なる徳は必ずこれを守ってその規則に外れてはならない。小さな行いは規則にことごとく合わなくても差し支えない。 |